在職老齢年金の2026年改正|基準65万円の計算例と会社の実務
2026年(令和8年)4月から、働きながら受け取る老齢厚生年金のしくみ「在職老齢年金」が変わりました。年金が減らされる基準額が、月51万円から月65万円に引き上げられています。
この記事では、改正前後で何がどう変わったのかを、計算例を使って整理します。あわせて、60歳以降も働く本人が気をつけたい点と、高齢の従業員を雇う会社が見直したい給与・賞与の設計や届出についても説明します。
数字は2026年10月時点で日本年金機構と厚生労働省が公表している内容にもとづいています。
在職老齢年金とは
在職老齢年金は、厚生年金に加入して働きながら老齢厚生年金を受け取る人について、給与と年金の合計が一定額を超えたときに年金の一部または全部を止めるしくみです。まず対象と計算に使う数字を確認します。
対象は「厚生年金に加入して働きながら老齢厚生年金を受ける人」
対象になるのは、会社員や役員として厚生年金に加入しながら、老齢厚生年金を受け取っている人です。65歳以上の人のほか、生年月日によって65歳前から受け取る「特別支給の老齢厚生年金」の受給者も含みます。
70歳になると厚生年金の被保険者ではなくなり、保険料の負担はなくなります。ただし、厚生年金の適用事業所で働き続けている場合は、70歳以上でも同じ計算で年金の調整が行われます。
一方、自営業やフリーランスとして働いている人、厚生年金に加入しない短い時間で働いている人は、収入がいくらあっても在職老齢年金の対象になりません。
減るのは老齢厚生年金だけ
調整の対象は老齢厚生年金(報酬比例部分)です。老齢基礎年金と経過的加算額は、給与がいくら高くても全額支給されます。「働くと年金が全部なくなる」というのは誤解です。
計算に使う「基本月額」と「総報酬月額相当額」
基本月額は、加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の年額を12で割った額です。総報酬月額相当額は、その月の標準報酬月額(毎月の給与をもとに決まる保険料計算上の額)に、その月以前1年間の標準賞与額の合計を12で割った額を足したものです。つまり、賞与も月割りにして計算に入ります。
2026年4月の改正で何が変わったか

改正の中身は、年金が止まり始める基準額(支給停止調整額)の引き上げです。2025年6月に成立した年金制度改正法にもとづくもので、2026年4月1日から適用されています。
基準額が月51万円から月65万円へ
2025年度(令和7年度)は、基本月額と総報酬月額相当額の合計が51万円を超えると年金の調整が始まりました。2026年度(令和8年度)からは、この基準が65万円になりました。合計が65万円以下であれば、老齢厚生年金は全額支給されます。
「62万円」という数字との関係
報道や厚生労働省の資料で「50万円から62万円へ」という表記を見た方もいると思います。これは2024年度の価格で示した数字です。基準額は賃金の変動に合わせて毎年度見直されるため、2026年度の額は65万円になっています。来年度以降も変わる可能性があるので、年度ごとに確認が必要です。
| 項目 | 改正前(2025年度) | 改正後(2026年度) |
|---|---|---|
| 支給停止調整額 | 月51万円 | 月65万円 |
| 全額支給になる条件 | 基本月額+総報酬月額相当額が51万円以下 | 基本月額+総報酬月額相当額が65万円以下 |
| 停止される額(月額) | (合計額-51万円)÷2 | (合計額-65万円)÷2 |
| 老齢基礎年金 | 全額支給 | 全額支給 |
本人の届出は不要
改正にあたって、受給者が何かを届け出る必要はありません。2026年4月分の年金から、新しい基準で自動的に計算されています。年金の支払いは2か月ごとなので、4月分と5月分が支払われた6月の振込で変化に気づいた方も多いはずです。
計算方法と計算例

2026年度の計算式は次のとおりです。基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円を超えた場合、1か月あたりの年金額は「基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)÷2」となります。結果がマイナスになると、老齢厚生年金は加給年金額を含めて全額支給停止です。
以下はいずれも仮定の計算例です。
例1:改正で全額支給になったケース
基本月額10万円、総報酬月額相当額50万円(賞与なし、月給50万円)の人で考えます。合計は60万円です。改正前は51万円を9万円超えていたため、半分の4.5万円が止まり、受け取れる年金は月5.5万円でした。改正後は65万円以下なので、月10万円を全額受け取れます。
例2:一部の支給停止が残るケース
基本月額15万円、標準報酬月額50万円、年間の賞与が120万円の人です。総報酬月額相当額は50万円+120万円÷12=60万円、合計は75万円になります。改正後は65万円を10万円超えるので、停止額は5万円、受け取れる年金は月10万円です。改正前は停止額が12万円で、受け取れるのは月3万円でした。
例3:給与が高い役員などのケース
基本月額20万円、総報酬月額相当額65万円の人では、合計85万円です。停止額は(85万円-65万円)÷2=10万円で、年金は月10万円になります。改正前は停止額が17万円で、月3万円でした。給与水準が高い人ほど、改正による増額幅が大きくなります。
| 仮定 | 合計額 | 改正前の年金(月) | 改正後の年金(月) |
|---|---|---|---|
| 基本月額10万円・総報酬50万円 | 60万円 | 5.5万円 | 10万円 |
| 基本月額15万円・総報酬60万円 | 75万円 | 3万円 | 10万円 |
| 基本月額20万円・総報酬65万円 | 85万円 | 3万円 | 10万円 |
いずれも老齢基礎年金は別に全額支給されます。実際の年金額は、ねんきん定期便や年金額改定通知書で確認してください。
働く高齢者本人が押さえておきたいこと

改正で調整される人は減りましたが、本人が誤解しやすい点がいくつか残っています。
賞与も計算に入る
毎月の給与が低くても、賞与が多いと総報酬月額相当額が上がります。賞与の支給があった月から1年間、その賞与額の12分の1が毎月の計算に加わる点に注意してください。
毎年10月に年金額が見直される
65歳以上70歳未満で厚生年金に加入している人は、毎年9月1日を基準日として、それまでの加入実績を反映した年金額に見直されます。これを在職定時改定といい、10月分の年金から増えます。退職して1か月が経ったときも、退職した翌月分から年金額が見直されます。
加給年金も止まる場合がある
計算の結果、老齢厚生年金が全額支給停止になると、配偶者などを対象とする加給年金額も止まります。一部停止にとどまる場合は加給年金額は支給されます。加給年金を受けている人は、全額停止にならないかを特に確認しておきたいところです。
繰下げ待機中も停止分は増えない
老齢厚生年金を繰り下げて増やそうと考えている人は注意が必要です。待機中に厚生年金に加入して働いていた場合、在職老齢年金で止まるはずだった部分は、繰下げの増額の対象になりません。基準額が上がったことで、この影響を受ける人も減っています。
会社側の実務

改正自体に会社の届出は不要です。ただ、60歳以降の従業員の給与や働き方を決めるときの前提が変わるため、見直しの余地があります。
再雇用者・役員の給与と賞与の設計
これまで「年金が減るので給与は月○万円まで」と本人と調整していた会社では、その上限を見直せる可能性があります。役員も厚生年金の被保険者であれば同じ計算です。給与と賞与の配分を変えても、賞与は12分の1ずつ1年間計算に入るため、年間の総額で考える必要があります。
70歳以上の従業員の届出
70歳以上の人を雇うときや、従業員が70歳になったときは、会社が「70歳以上被用者」としての届出を行います。厚生年金の保険料はかかりませんが、年金の調整のために給与や賞与の情報が必要だからです。賞与を支払ったときの「賞与支払届」も、70歳以上の人の分を含めて提出します。届出の要否や様式は日本年金機構の案内で確認してください。
従業員への説明で伝えたいこと
在職老齢年金の計算は、本人の年金額と給与の両方がわからないとできません。会社が個人の年金額を把握する必要はありませんが、「合計65万円以下なら年金は減らない」「賞与も入る」「老齢基礎年金は減らない」という3点を伝えておくと、本人が働き方を判断しやすくなります。
| 場面 | 会社の手続き | 提出先・期限の目安 |
|---|---|---|
| 60歳以降の再雇用で給与が下がった | 同日得喪(資格喪失届と資格取得届を同時に提出)の検討 | 年金事務所(事務センター)・事実発生から5日以内 |
| 70歳以上の人を雇った・70歳になった | 70歳以上被用者に関する届出 | 年金事務所(事務センター)・事実発生から5日以内 |
| 賞与を支払った | 賞与支払届(70歳以上の人を含む) | 年金事務所(事務センター)・支払日から5日以内 |
今後の改正予定とあわせて確認したいこと
同じ年金制度改正法には、在職老齢年金の計算に関わるほかの改正も含まれています。
標準報酬月額の上限引き上げ(2027年9月から段階的に)
厚生年金の標準報酬月額の上限は現在65万円ですが、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円へと段階的に引き上げられる予定です。給与が月65万円を超える人は、保険料が上がる一方で、総報酬月額相当額も上がります。役員報酬の高い方は、施行時期に合わせて計算し直すことをおすすめします。
基準額は毎年度変わる
65万円は2026年度の額です。2027年度以降は賃金の動きに応じて改定されます。毎年4月ごろに日本年金機構や厚生労働省が公表する額を確認してください。
よくある質問
パートで厚生年金に入っていない場合も年金は減りますか
減りません。在職老齢年金の対象は、厚生年金に加入して働く人(70歳以上は適用事業所で働く人)です。厚生年金に加入していない働き方なら、収入があっても老齢厚生年金は調整されません。
改正に合わせて何か届け出る必要はありますか
本人も会社も、改正のための届出は不要です。2026年4月分から自動的に新しい基準で計算されています。
65歳前の特別支給の老齢厚生年金も同じ計算ですか
同じです。2022年(令和4年)4月から、65歳前も65歳以上と同じ計算方法になっており、今回の65万円の基準も同様に適用されます。
止まった年金は後から受け取れますか
受け取れません。在職老齢年金で止まった分は、退職後に戻ってくるものではありません。ただし、退職時や在職定時改定で、働いた期間の分だけ年金額そのものは増えます。
遺族厚生年金や障害厚生年金も減りますか
在職老齢年金で調整されるのは老齢厚生年金です。遺族年金や障害年金とあわせて受け取っている場合の扱いは組み合わせによって異なるため、年金事務所や専門家に確認してください。
自分の基本月額はどこで確認できますか
日本年金機構から届く年金額改定通知書や年金決定通知書、または「ねんきんネット」で確認できます。加給年金額を除いた老齢厚生年金の年額を12で割った額が基本月額です。
まとめ
2026年4月から、在職老齢年金の支給停止調整額は月65万円になりました。給与(賞与を含む月割り額)と老齢厚生年金の合計が65万円以下なら、年金は減りません。超えた場合も、停止されるのは超えた額の半分で、老齢基礎年金は全額支給されます。
会社にとっては、再雇用者や役員の給与を決めるときの前提が変わる改正です。届出は不要ですが、70歳以上の従業員の届出や賞与支払届は従来どおり必要です。2027年9月からの標準報酬月額の上限引き上げも含めて、高齢の従業員の給与設計を一度見直しておくとよいでしょう。
蓮池社会保険労務士事務所では、60歳以降の再雇用者の給与設計や社会保険の手続きについて、顧問契約の中でご相談をお受けしています。大阪を中心に対応しています。サービス内容と料金案内をご覧のうえ、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
参考(公的機関の情報)
- 日本年金機構「在職老齢年金制度が改正されました」
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
- 日本年金機構「在職老齢年金」(年金用語集)
- 厚生労働省「制度変更(令和8年4月)」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
※本記事は2026年10月時点の法令・制度にもとづく一般的な解説です。個別のケースでは結論が異なる場合があります。